【業界動向】物流×ブロックチェーンは何を実現する?最新の活用事例も!

ブロックチェーンは、国内67兆円の潜在マーケットをもつ有望技術です。特に物流業界と相性がよく、①台帳共有による合理化、②偽造品排除の二側面から注目を集めています。IBM等の最新事例と共に物流のデジタルトランスフォーメーション動向に迫ります。

なお、ブロックチェーンビジネスの考え方、全体像の概観を学びたい方は、次の記事も併せてご覧ください。

→ 参考記事:『ブロックチェーンのビジネスモデル・活用事例〜非金融など応用領域も解説〜』

目次

  1. 今、「物流×ブロックチェーン」が熱い。
  2. ブロックチェーンとは?
  3. ブロックチェーンと物流課題の相性の良さ
  4. 物流×ブロックチェーンで実現しうる2つの効果と活用事例

今、「物流×ブロックチェーン」が熱い。

2020年現在、ブロックチェーンとロジスティクス分野を掛け合わせたビジネスが、世界的な盛り上がりを見せています。

ガートナーのレポートでは世界のサプライチェーンソフトウェアマーケットは2017年の約1兆3000億円から13.9%の伸びを記録しており、中でも、Transparency Market Researchは今後さらに成長が期待され、2026年には3兆5000億円近くまで拡大すると予測されています。

例えば、グローバルEC企業であるAmazonは、2020年5月26日に、3年前に出願した「分散型台帳認証」の特許申請が承認されたことで、グローバルサプライチェーンの課題に対してブロックチェーンを用いたソリューションを提供し始める構えを見せています。

出典:ITmedia NEWS

具体的には、ハイパーレジャー(Hyperledger)などの分散型台帳技術(DLT)によってデータの改ざんを防ぎ、単一障害点(停止するとシステム全体が停止する箇所)を取り除くなど、中央集権型組織の管理上の問題を回避しようという方針です。

また、IBMは、コンテナ船世界最大手のA.P. Moller-Maersk(A.P.モラー・マースク、以下マースク)との共同でブロックチェーン基盤の海上物流プラットフォーム「TradeLens」を構築した他、世界最古の医薬品・化学品メーカーであるMerck KGaA(メルク・カーゲーアーアー、以下メルク)と共に偽造品対策プラットフォームを立ち上げています。

出典:TRADELENS 概要(IBM社資料)

ヨルダンの税関ではやAqaba税関では、トレードレンズのブロックチェーンサプライチェーンサービスの活用が進められています。

さらに、アジアに目を転じてみても、中国EC市場シェア2位のJD.com(下図)がブロックチェーンに関連する200件超もの特許を申請したという報道がなされるなど、世界最大の人口を抱える中国においても、物流のシステム全体をブロックチェーンによって強化していく流れがみられています。

出典:JD.com

その他、ロジスティックプロバイダーAlbaによるIPRブロックチェーン活用の実証実験参加、サプライチェーンロジスティックソフトウェアを開発するSwivel Softwareの国際間取引プラットフォームGlobal eTrade Services (GeTS)への参画など、影響力の大きなプレーヤーによる動きが続々と発表されています。

ブロックチェーンとは?

ブロックチェーン(blockchain)は、2008年にサトシ・ナカモトによって提唱された「ビットコイン」(仮想通貨ネットワーク)の中核技術として誕生しました。

ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、ここでは、「取引データを適切に記録するための形式やルール。また、保存されたデータの集積(≒データベース)」として理解していただくと良いでしょう。

一般に、取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、「分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

ブロックチェーンは、セキュリティ能力の高さ、システム運用コストの安さ、非中央集権的な性質といった特長から、「第二のインターネット」とも呼ばれており、近年、フィンテックのみならず、あらゆるビジネスへの応用が期待されています。

参考記事????「ブロックチェーン(blockchain)とは?仕組みや基礎知識をわかりやすく解説!

ブロックチェーンと物流課題の相性の良さ

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」という特徴を踏まえた上で、なぜ、「ブロックチェーン×物流業界がアツい」のでしょうか?

これは、結論からいえば、「物流業界のニーズとブロックチェーン開発会社のシーズとの利害関係が見事に一致したから」とみるのが妥当でしょう。

物流業界のニーズ

まず、物流業界側のニーズとして、「もともと物流業界は取引をデジタル化しようにも、プレーヤーが多すぎて中央のデータベースを誰が管理するかで意思統一できなかった」という課題がありました。

これに対して、ブロックチェーンは先ほどみたように、中立的でオープンな「非中央集権性」をもった技術です。

データ共有をセキュアに、また利害関係の衝突なく行うために、ブロックチェーンはまさに「渡りに船」な技術だと言えます。

こうした理由から、物流業界のニーズに対して、ブロックチェーンはマッチしています。

ブロックチェーン開発会社のシーズ

近年、ブロックチェーンの技術的可能性は金融領域の枠を超え始めたため、開発会社は、より自分たちのビジネスを拡大していくために、暗号資産(仮想通貨)以外の適用領域を探していました。

開発会社がシーズとして求めていた領域は、次のような、ブロックチェーンの特性をうまく活かせる条件をもった領域でした。

  • データベース共有によるコスト削減メリット →  「プレーヤーが多すぎて非効率な」業界
  • 非中央集権性 → 現時点で中央管理者が不在な方が実現しやすい → 「GAFAも中国もいない」業界
  • 優れたトレーサビリティ(データの追跡可能性) → 「嘘が多い」業界

こうした諸条件をもとに開発機会を各社が探していったところ、例えば不動産や医療など複数の業界が該当することになります。

そして、その一つとして、物流、サプライチェーンといった領域がフォーカスされれることになりました。

物流×ブロックチェーンで実現しうる2つの効果と活用事例

「物流×ブロックチェーン」では、大きく次の2つの効果を期待することができます。

  • 効果①:台帳共有による合理化
  • 効果②:偽造品排除

実際の活用事例をみながら、順に、説明していきましょう。

物流×ブロックチェーンの実現効果①:台帳共有による合理化

「物流×ブロックチェーン」が実現する効果の一つ目は、「台帳共有による合理化」です。

通常、物流業界では、関係各社が独自のルール・フォーマットで文書(データ)を作成し、それぞれの台帳(データベース)で管理を行なっています。

また、それらのデータが紙ベースの業務で処理されることも少なくありません。

これらの状況から、関係各社同士での連携業務においては、絶えずオペレーションエラーのリスクを抱えながら、ヒトによる非効率な突合作業が繰り返されることで、必要以上の膨大なコストがかかってしまっています。

これに対して、取引をデジタル化し、ブロックチェーンを利用してデータベースを共有することで、各社の連携業務を合理化し、大幅なコスト削減をはかることができます。

出典:『ブロックチェーンは「国境」を打ち破る IBMが乗り出す「信頼の基盤作り」とは』(IT media NEWS)

このような「台帳共有による合理化」を国際貿易の舞台で大々的に実現させようとしているのが、本記事冒頭でも紹介した「TradeLens」です。

TradeLensは、2016年9月から、IBMとコンテナ船世界最大手のマースクとの共同で検証を開始したブロックチェーン基盤の海上物流プラットフォームで、荷主・ターミナル・運送業者・船社・海上保険・通関業者など、海上物流に関係するあらゆる会社間でのデータベース共有を実現し、業界全体の非効率を解消しようという一大プロジェクトです。

IBM社の発表資料によると、国際貿易は、次のような業界課題を抱えています(下記、同資料より本文の一部を抜粋)。

  • データは組織のサイロに閉じ込められている
    • 情報はサプライ・チェーン内の数十のサービス・プロバイダーによって紙やさまざまなデジタル・フォーマットで保持されていて、複雑で、わずらわしい、経費のかさむ一対一のメッセージングを必要としています。
    • 結果として組織の境界を越えると情報が矛盾し、船荷がなかなかはっきりわ からず、さらには場所によっては見えないので、効率的な流れが妨げられています。
  • 手作業、時間のかかる、紙ベースの処理
    • 最新データの収集、処理と非効率な貿易ドキュメントの交換のために、手作業で確認したり、頻繁にフォローアップが必要だったりして、ミスや遅れが生じたり、コンプライアンス・コストがかさむといった結果になります。
    • 情報が足りないために、ドキュメントは常に遅れます。
  • 通関手続きに時間を要し、不正も発生
    • 税関当局によるリスク評価は十分な信頼できる情報が欠けているために、検査率が高くなり、詐欺や偽????に対する防止手段が追加されて、通関手続きが遅れます。
  • 高コストと低レベルな顧客サービス
    • これらの難問が下流に大きな影響を与えます。
    • 効果的な予測、計画やサプライ・チェーンの混乱に対するリアルタイムの対応、サプライ・チェーン全体 での信頼できる情報の共有などができないので、過剰な安全在庫、高い管理コスト、運用上の難問、最終的には貧弱な顧客サービスにつながります。

こういった課題に対して、TradeLensでは、「グローバル・サプライ・チェーンのデジタル化」を掲げ、オープンソースの権限型ブロックチェーンであるHyperledger Fabricを元にしたIBM Blockchain Platformを利用することで、関係各社すべてでの台帳共有を実現しようとしています。

物流×ブロックチェーンの実現効果②:偽造品排除

「物流×ブロックチェーン」が実現する効果の二つ目は、「偽造品排除」です。

偽造品は物流業界の天敵とも呼べる存在で、経済協力開発機構(OECD)などによると、2016年に世界で取引された偽造品と違法コピー品は5090億ドル(約53兆円)にのぼるとも言われています。

近年、この偽造品問題をブロックチェーンを利用して解決しようという動向が、国内外に大きく広がっています。

そもそも、偽造品がここまで大きな問題でありながらもこれまで解決されてこなかった理由は、既存の物流システムが「トレーサビリティ(商品の追跡可能性)」を高め切ることができなかったからと考えられます。

この課題に対して、ブロックチェーンはその仕組み上、過去の全取引データを時系列順に格納・検索することができ、加えてデータの対改竄性が非常に高いため、悪徳業者による不正を防ぐことができます。

こうしたブロックチェーンの特徴を「偽造品排除」の文脈でうまくビジネス利用しようとしているのが、日通(日本通運)です。

出典:「日通、ブロックチェーンで偽造品排除 物流に1000億円」( 2020/3/9 1:30日本経済新聞 電子版)

2020年3月9日の日本経済新聞の記事によると、「日本通運はアクセンチュアやインテル日本法人と組み、ブロックチェーン(分散型台帳)を活用した輸送網の整備に乗り出」し、「まず医薬品を対象に2021年の構築を目指しており、倉庫の整備などを含め最大1千億円を投資する」ことで、「偽造医薬品の混入を防ぐための品質管理に生かし、将来は消費財全般に応用する」ことを発表しています(「」内は同記事からの引用)。

上図のように、ブロックチェーンを利用した偽装品排除の取り組みでは、メーカーから小売に至るまで、川上から川下のデータを同一クラウドデータベース上にすべて紐づけていくことで、ある商品がいつ、どこで、誰によって、どんな状態で管理されているかを可視化することができるようになります。

これにより、商品のトレーサビリティが高まり、産地やハラールの認証、違法コピーなど様々な偽造品問題を解消できるのではないか、と期待されています。